Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

  “盛夏にて候”
 

 
平安時代の様々な催事や行事は、
現今に持って来るとなると
旧暦と太陽暦に差異がある関係から、
1カ月ちょっとほどズレるものが多い中。

 「夏だから…という風習自体はさほど違えようもないからの。」
 「だから。俺らの側が未来とのそれを比較出来てどうすんだ。」

相変わらず“時代考証”ってものをすっ飛ばしてくださる
豪気なお館様なのは、もう今更なので さておいて。
(苦笑)

  「………。(zzzzzzzz…。)」

床を埋めるという形での畳こそまだお目見えしてない時代だが、
藺草
いぐさを編んだものを張った“御座ござ”は既に存在しておりて。
今で言うところの花茣蓙
はなござ
真新しい藺草を編んでの青々とした香りが馥郁と匂い立つ、
二畳ほどの広さの敷物を。
広間の奥向き、板の間の感触がひんやりするその上へと敷いて、
時折そよぎ込む、ちょっぴりぬるい風にあやされながら、
くうくうと心地よさげな寝息を立てている和子が二人ほど。
片やはクセのある深色の髪をした、十四、五歳ほどの少年で、
淡青、縹色の小袖に濃紺の麻袴という、
夏向けの色襲
かさねも涼しげないで立ちを、
されど寝癖でしわにしているところが稚
いとけなく。
そんな彼の懐ろ近く、
まるで親の身に添うよなほどもの
懐きようを思わせるまで間近に擦り寄り、
一緒に午睡を堪能している小さな和子がおり。
お顔を仰のけているせいか、
小さな小さな唇の合わせがうっすらと開きかかっているのがまた、
何とも言えずの愛らしく。
小さなお兄さんの前腕を枕に借りて、
茣蓙の上へ、
甘い色合いの細い髪、束ねた房を軽やかに散らして、
屈託なくの無心に、ただただ眠っている静かさよ。

  くうくう・すうすう
  髪が遊ばれて、ふわふわ。

今日もそろそろ真昼の暑さに辺りは満ちており、
温気もむっちり満ちての蒸し暑さながら、
だが、夕立ちの気配はまだなくて。
蝉の声さえ耳に慣れての、却って静かな昼下がり。
取り込み損ねた薬玉の房が、ゆらゆら揺れて、板の間にも陰を揺らす。
起きていれば、
その本体を見つけられぬままでも構わずに、
そんな陰の躍るのを夢中になって追うている子が、
今は静かに午睡をむさぼる。
そんな小さな幸い、ささやかな安泰が、
それをただ見守る者へも、
擽ったくなるほどの幸せを味合わせてくれるから不思議。

 ――― くうは一見あんな態だが、実は夏毛をまとっておるのだろう?
      ああ。
      だったら腹を冷やすことを案じなくていいから助かるの。
      それがそうでもない。
      ???

無邪気に眠る二人の和子を、
こちらさんも思わずのほのぼの、
口元ほころばせて眺めていた、
金髪痩躯のお館様と、黒髪頑健な侍従殿だったが、

 「あれで くうは結構な寝相をしておるのでな。」
 「おチビさんが蹴られてでもおるのか?」
 「いやさ。気がつくと…おお、ほれ。」

言うより早い実演が目の前にと、畳んだ桧扇で指した先、
ころころ身をよじっての寝返りを打った小さな仔ギツネくん、
ぱふりとくっついたセナくんのお腹に、そのまま ぎゅむと抱きついた。

 「冬場はいいのだ、暖かくって。」
 「成程…。」

いくら夏毛でさらさらしているといっても、
子供の体温にぎゅっとしがみつかれては、

 「う〜〜〜〜。」

小さな書生くん、何だかちょぴり暑いなぁと感じてか、
表情が少しほど曇って来たような。

 「引き離してやらんでいいのか?」
 「もちっと我慢してもらう。」

でないとくうが中途半端に起こされたと愚図るから…と、
結構勝手な言いようをなさる神祗官補佐様へ。
お前もたいがい鬼のような奴だの…なんて。
ご自分こそ“邪妖”の葉柱が眉をひそめるやり取りへ、

  “子供の寝かし方くらいへ“鬼のよう”と来たか。”

相変わらず、ここはほのぼのと平和な空間よのと、
敷地内ぎりぎりの楢の梢に腰掛けてた、蛇の邪妖様がくすすと微笑う。

本当に、幸せな空間、
のんびり静かな真夏の午後のようでございます…。



  暑中お見舞い申し上げます



  〜Fine〜 07.8.03.


  *ちょっと くうちゃんがご無沙汰しておりますので、
   真夏のご挨拶がてら。
(苦笑)

めるふぉvv めるふぉ 置きましたvv

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